Detailed Explanation (may be) of Gods of CTHULHU MYTHOS
ハスター、ハストゥール、ハスタ神
1891年 初登場作品:アンブローズ・ビアス「羊飼いハイタ」
関連作品:アンブローズ・ビアス「カルコサの住民」
1895年 言及作品:ロバート・W・チェイムバーズ「評判を回復する者」
「仮面」
「黄の印」
関連作品:ロバート・W・チェイムバーズ「ドラゴン路地にて」
1931年 言及作品:H.P.ラヴクラフト「闇に囁くもの」
1939年 登場作品:オーガスト・ダーレス「ハスターの帰還」
1962年 登場作品:ラヴクラフト&ダーレス「魔女の谷」
1974年 登場作品:F・C・アダムズ「The Punishment of Ighatha」
1976年 言及作品:リン・カーター「Zoth-Ommog」
1992年 言及作品:ジョン・ブラナー「Concerning the Forthcoming Inexpensive Paperback Translation of the Necronomicon of Abdul Alhazred」
2008年 登場作品:ベネット・ライリー「Star-crossed」
2008年 登場作品:ティム・カッラン「Tomb on a Dead Moon」
呼称:名状し難きもの(The Unspeakable)
名付け難き彼の者(He Who is Not be Named)
星間宇宙の王(Lord of Interstellar Spaces)
化身(Avatar):黄衣の王(King in Yellow)
ザスター(Xastur)
この神は古きものの一柱です。普通は只の古きものとされていますが、外なる神の一柱とする場合もあります。
クトゥルー(Cthulhu)の異母弟とも従兄弟とも云われています。触手のある黒い不定形の水棲生物風の姿らしいのですが、その姿に関して正確な描写は無く曖昧なままです。ダーレスの四大元素説では風の精であり風の精達の王となります。ヒアデス星団のアルデバラン太陽系にあるカルコサのハリ湖に、古き神々(The Elder Gods)に依って封印されていますが、人間が召喚すると、召喚者の体内に現れるのを好みます。しかし人間の体内に出現しその人間の身体を乗っ取ったハスターは弱く、せいぜいクトゥルーの落とし仔(Spawn of Cthulhu)の一体と互角に戦える程度でLesser Old One並に古き印(Elder Sign)に弱い存在です。
元はアンブローズ・ビアス(Ambrose Bierce)が「羊飼いハイタ」(Haita the Shepherd)と云う寓話に登場させた神の役割を持った存在でした。普通であれば神が主人公に声をかける場面で、ハスターと云う存在が声をかけたのです。しかし、このハスターが何であるのかビアスは一切説明していません。 只、この名前を気に入った人々が居ました。マリオン・ジマー・ブラッドリーは彼女の代表作であるダーコーヴァ・シリーズで、惑星ダーコーヴァの貴族の一つにハスターの名を与えました。ロバート・W・チェイムバーズ(Robert W Chambers)はビアスの「羊飼いハイタ」からハスターの名を借用したのみならず「カルコサの住民」(An Inhabitant of Carcosa)からハリと云う人物の名や、滅び去った古代の町カルコサと云った固有名詞を借りて来て、自作中でハリを二重太陽の地にある湖、カルコサを暗黒星を天に抱く町とした上で、ハスターの名を何であるのか説明せず意味ありげにハリ、カルコサ等の固有名詞の中に紛れ込ませました。チェイムバーズのこのパターンはラヴクラフトも踏襲し、様々な作品の中で自分の創造した神々や地名、或いは交流のある書き手達の創造物を如何にも意味ありげに並べてみせたのです。そして、1931年に発表された「闇に囁くもの」(The Whisper in Darkness)ではハスターやハリの名はチェイムイムバーズの創造した「黄の印」(Yellow Sign)と共に、如何にも意味ありげに並べられたのです。
ハスターと云う固有名詞に具体的なものを与えて扱ったのはダーレスの「ハスターの帰還」(Return of Hastur)が最初です。そして、ラヴクラフトが「闇に囁くもの」で名のみ記したハスターは、ここで看板を背負って大々的にデヴューを果たします。もっとも、この作品は執筆にかなりの歳月を費やしており、早くからラヴクラフトの指導の下で書かれていたと云う事なので、或いはこの草稿を見たラヴクラフトが「闇に囁くもの」にチェイムバーズの要素を加えた可能性もあります。 ダーレスはハスターを作品に依って、クトゥルー(Cthulhu)の従兄弟、或いはクトゥルーの異母弟と呼んでいました。想うに、ダーレスはハスターの出自について具体的な事は何一つ想定せず、只、クトゥルーに近い存在であるとしたかっただけなのではないでしょうか。そして彼は四大元素説に基づいてクトゥルーを水の精としハスターとクトゥルーが対立する存在であるとしたのです。いずれにせよ、ハスターは、ダーレスの創造した存在と云ってもあながち間違いでは無いでしょう。そして、「ハスターの帰還」ではヒアデス星団中のアルデバラン太陽系のカルコサでハリ湖に封印されていたハスターが脱出して来ますが、その脱出先はあろう事か人間の体内で、一方クトゥルーの落とし仔と思しき存在が出現、人間の死体をのっとって怪物化したハスターが迎え撃ち、いざ怪獣大決戦に突入!と云ったところで、ベテルギュウス太陽系から飛来した古き神に引き分けられ再封印されてしまう・・・と云う特撮映画化したくなる様な派手なデヴューを果たしていますが、同時に後にも見られるショボさが既に現れています。どう云う事かと云うと、仮の身体を使っていたとは云え、風の王がクトゥルーの落とし仔相手に互角だったのです。しかも古き神には瞬殺です。後、ラヴクラフトのメモを元にダーレスが書いたとされる「魔女の谷」(Witches'Hollow)では矢張り人間の体内に出現するものの、古き印(Elder Sign)を見せられるだけで逃亡しています。ハスターは姿形の曖昧さもあってダーレス作品では、クトゥルーのライヴァル、それも、クトゥルーにやや劣るライヴァルとしての立ち位置しか与えられていない様な気がします。なお、ハスターがアルデバラン太陽系に封印されているのもダーレスの創造で、この設定を元に、人類が殖民星を建設する迄になった時代にアルデバラン太陽系を訪れた宇宙船の乗組員がハスターらしき存在に襲われる「Tomb on a Dead Moon」と云う作品もあります。 なお、ダーレスはハスターの妻をシュブ=ニグラス(Shub-Niggurath)としており、この設定を元にベネット・ライリー(Bennet Reilly)が書いた「Star-crossed」では、シュブ=ニグラスがハスターの子供を欲しがっている様子が描かれています。又、ここではハスターもシュブ=ニグラスも共に外なる神とされています。
ハスターが具体的な出自を与えられたのはリン・カーターの「Zoth-Ommog」でした。ここでハスターはヨグ=ソトース(Yog-Sothoth)の息子(母は不明)で、クトゥルーの異母弟でありヴルトゥーム(Vulthoom)の異母兄であるとされたのです。
ハスターはクトゥルーに比べると眷属等が少ないのですが、従者でもあり信徒でもある者達としてンガ=クトゥン(N'gah-Kthun)率いる外なるもの(Outer One)達がおり、ビャキー(Byakhee)と言う使役生物達が居ます。 又、風の王として風の精達を従えており、中でもイタカ(Ithaka)は召使だと言われています。そして、一説には、イタカ、ツァール(Zhar)、ロイガー(Lioigor)は、みなハスターの子供であるとも云われています。
古きもの達の中ではハスターは割とマメな方で崇拝者達の事を結構気にかけています。ビアスの「羊飼いハイタ」では、ハスターは彼を崇めるカルコサ人の羊飼い達の一人ハイタに、わざわざテレパシーで呼びかけています。 又、F・C・アダムズ(F C Adams)の「The Punishment of Igatha」では、インの書(Book of Yin)の翻訳の形を取っており、それに依ると古代の地球でハスターの神殿を取り仕切っていた女官達の一人が、シュブ=ニグラスの息子のイガールタ(Igharta)にレイプされ殺さてしまった際、イガールタに報復を与えています。 現代の地球においては、黄の印の兄弟達(Brothers of Yellow Sign)と云う秘密結社が存在し、ベネット・ライーの「Star-Crossed」では、ハスターの妻とされるシュブ=ニグラスに従う千匹の仔山羊達(Thousand Young)と協力関係にある様です。なお、黄の印(Yellow Sign)は本来は黄衣の王(King in Yellow)に関わりがあるもので共にチェイムバーズの創作で、彼はそこにハスターやカルコサと云ったビアス由来の固有名詞を取り込んで使用し、それ等がそっくりワンセットでクトゥルー神話の世界に取り込まれた為、ハスターは黄衣の王や黄の印と関連付けられる事になりました。 なお、ハスターはジョン・ブラナーの「Concerning the Forthcoming Inexpensive Paperback Translation of the Necronomicon of Abdul Alhazred」において、ネクロノミコン(Necronomicon)中にクトゥルー、シュブ=ニグラス、ヨグ=ソトース(Yog-Sothoth)、ツァトゥグァ(Tsathoggua)等と共に記述があるとされています。
ハスターには化身があります。化身とは力の一部などが本体から離れ、本体とは異なる実体を持って存在するもので、例えばエイボンの書(Book of Eibon)において星々を超えて歩む者と謳われる偉大なるザスター(Xastur)ともハスターの別名もしくは化身であるようです。 又、本来、戯曲のタイトルでもあり戯曲の中で語られている存在だった黄衣の王は、今日、ハスターの化身とされています。但し、ベネット・ライリーは「Star-Crossed」の中で、黄の印の兄弟達が用意した人間の身体に入り込んだハスター自身を黄衣の王とも呼んでいます。ハスターも黄衣の王もワンセットで取り込まれたとは云え、両者のイメージは堅く結び付いており、これはハスターがクトゥルーの様な具体的かつインパクトのあるイメージに欠ける為だと想われます。
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