Detailed Explanation (may be) of Gods of CTHULHU MYTHOS
ダゴン、デイゴン
1919年 初登場作品:H・P・ラヴクラフト「ダゴン/デイゴン」
1936年 言及作品:H・P・ラヴクラフト「インスマウスの影/インズマスの影/インスマスを覆う影」
1976年 言及作品:リン・カーター「Zoth-Ommog」
2008年 登場作品:キム・ペイファーロス「The Covenant」
この神は古きもので、リン・カーター(Lin Carter)の分類に従えばLesser Old Oneに入ります。
ラヴクラフトは1919年に同人誌The Vagrant11号に「ダゴン」(Dagon)と云う作品を発表しました。この作品は短いながらもラヴクラフトの才を詰め込んだ様な作品で、ボートで漂流していた主人公が、気付くと海底から隆起した島の上に座礁していて、海底の軟泥の上をさすらうシーンなどは圧巻です。そして、そこが古代においては陸地であった事を示す像などを見るのです。そしてそこに出現する巨大な謎の生物!テンポが良く実に映像的です。大体、海底から飛び出して来たばかりの海水が乾ききっていない大地の風景を描こうなんて、そう滅多に想いつけるものでもありません。謎の生物(怪物)の登場と云い、B級感覚溢れるラストと云い、このショートストーリーはラヴクラフトのセンスが爆発しています。又、この作品は後の「クトゥルーの呼び声」(Call of Cthulhu)の元になったと云われている作品ですが、確かに「クトゥルーの呼び声」のクライマックス部分で語られる海底から不意に隆起した島とそこに出現する巨大な怪物は「クトゥルーの呼び声」の先駆けと云っても良いでしょう。そして、この「ダゴン」に登場した生物が、今日、クトゥルー神話においてダゴンと呼ばれているもの・・・・・・らしいのです。 古来より首から上がほかの生物の頭部になっているヒューマノイドの神と云うのは世界各地で見られるものでしたが、このダゴンは魚頭人身の姿形をしています。一言で云えば映画で有名な半魚人の姿です。一説にはユニバーサル映画の「大アマゾンの半魚人」は、ダゴンに(もしくは、後述する深きものに)ヒントを得たのではないかと云われています。なお、ダゴンは現実に崇拝されていた神です。元はヘブライの方に居た古代ペリシテ人の神様で、かつては漁業の神様と想われ、それで多分、魚頭なのだろうとされていたらしいのですが、実は農業の神様だった可能性もあり、だとしたらどんな姿だったのでしょう? 現在の魚頭人身のイメージは、どうもミルトンの「失楽園」の影響らしいとの事です。神や魔物の幾らかは、ここで悪魔とされていますが、ダゴンもそうでした。以後、ダゴンは悪魔の名前としても知られていますが、クトゥルー神話におけるダゴンは悪魔としてではなく、古代に神として崇められていたち思しき生物が居た・・・と云うものなので、デザインの元がそうだったとしても「失楽園」の方は無視しても構わないと想います。 後、ラヴクラフトは1936年に発表した「インスマウスの影」(The Shadow Over Innsmouse)で、このダゴンの量産型とも云える存在を登場させました。深きもの(Deep One)と呼ばれる存在です。そしてダゴンを彼等の神とし、ダゴンを崇めるダゴン秘密教団(Esoteric Order of Dagon) を登場させました。人間が人の姿形の神を崇め奉る様に、半魚人達は半魚人の姿形の神を崇め奉っていると云う訳です。又、ダゴン秘密教団の教義ではダゴンと並ぶ存在としてヒュドラ(Hydra)と呼ばれる存在が居り、父なるダゴン(Father Dagon、母なるヒュドラ(Mother Hydra)として信者達から崇められています。
ラヴクラフトはそこ迄しか書かなかったのですが、後に深きものに絡んで父なるダゴン、母なるヒュドラには新たな設定が付け加わりました。神とされていたこの父なるダゴンと母なるヒュドラが深きもの達の長であると云うもので、リン・カーターは「Zoth-Ommog」の中で深きものをLwsser Old Oneであるとし、その長であるダゴンとヒュドラも共にLesser Old Oneであるとしました。こうして、ダゴンは矮小化されました。神としての側面より、クトゥルー(Cthulhu)配下の深きもの達の長としての側面の方が強調されてしまったのです。一言で云うなら、神から単なる深きものの一個体への転落です。 なお、従来の半魚人から枝分かれした非ヒューマノイドのラニクァ・ルアーウアン(Laniqua Lua'huan)族の方は別にツァールーン(Tsur'lhn)と云う長が率いているので、ダゴンの支配下にあるのは「インスマウスの影」でお馴染みのポピュラーな半魚人タイプに限られているものと想われます。
ダゴンの姿は二本腕の半魚人が一般的ですが、ハーマン・メルヴィル(Herman Melville)が1851年に発表した「白鯨」(Moby-Dick)に登場する主人公の船長アハブ/エイハブ(Ahab)の前に現れた時は、両腕は人の腕ではなく触腕でした。この時のダゴンは人の言葉で船長相手に喋っており、実は船長はダゴンの信者でした・・・と云うのがキム・ペイファーロス(Kim Pafferroth)の「The Covenant」と云うショートストーリーです。メルヴィルの「白鯨」には未発表の失われた原稿があった・・・と云う冗談なのですが、こういったお遊びも、クトゥルー神話の特色の一つです。
ラヴクラフトの「インスマウスの影」は、後にアメリカ国内に現実に二つの団体を誕生させました。いずれもダゴン秘密教団を名乗る組織です。 一つは同人出版会としてのダゴン秘密教団(Esoteric Order of Dagon)です。1971年に結成され、ラヴクラフトの研究やクトゥルー神話の創作、或いはクトゥルー神話関連の書籍を多く手がける出版社を興すなど、今日、様々な方面での会員の活躍が見られる歴史ある組織ですが、会の活動としての会員達に依る作品が会の外に出て来る事がなく、彼等の創作したクトゥルー神話の内容を知る事が出来ないのが難点です。なお、同じ名前の団体がホラー(クトゥルー神話含む)のファンクラブとして1988年にオーストラリアで結成されたようですが、アメリカのダゴン秘密教団とは直接関わりは無いようです。ネットで調べた限りでは、1993年迄に会誌を9冊発行しているようです。 もう一つはオカルト結社としてのダゴン秘密教団(The Esoteric Order od Dagon)です。マジに。こちらは1981年から続いているようです。現実にラヴクラフトの作品にはオカルティスト達も注目しているようで、現実にプロの魔術師であり、あのアレイスター・クロウリー(Aleister Crowley)の直弟子の一人でもあるケネス・グラント(Kenneth Grant)も1972年の「魔術の復活」(The Magical Revival)で、クロウリーの唱えた魔術の神々とラヴクラフトの神々(古きもの達)との比較を行っていたりします。和製クトゥルー神話の「妖神グルメ」(菊地秀行・英語版未訳)ではオカルティックなパワーを吸収する為と称してアーカム・ハウスの敷地に勝手に入り込むダゴン秘密教団なる団体が登場しますが、実話でしょう。この団体ではラヴクラフトの神々を実際に存在しているものとして扱っているようで、今日も活動を続けています。 なお、どの団体も略称は「E.O.D」ですが、オカルト結社だけ正式名称の時に頭に定冠詞「The」が付くようです。
テーブルトークRPGでは、ダゴンはヒュドラともども只の大きいだけの深きものとして設定さているようです。
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