Detailed Explanation (may be) of Gods of CTHULHU MYTHOS
イタカ、イサカ
呼称
風に乗りて歩むもの(The Thing That Walked on the Wind)
雪のもの(Snow Thing)
1910年 関連作品:アルジャーノン・ブラックウッド「ウェンディゴ」
1933年 初登場作品:オーガスト・ダーレス「風に乗りて歩むもの/奈落より吹く風」
1941年 登場作品:オーガスト・ダーレス「イタカ」
1975年 登場作品:ブライアン・ラムレイ「Born of the Winds」
「The Transition of Titus Crow」
1976年 言及作品:リン・カーター「Zoth-Ommog」
1978年 登場作品:ブライアン・ラムレイ「Spawn of the Winds」
1979年 登場作品:ブライアン・ラムレイ「In the Moons of Borea」
1989年 登場作品:ブライアン・ラムレイ「Elysia:The Coming of Cthulhu」
雪の上に足跡を残し高空や宇宙空間を移動する巨大なヒューマノイドで、暴君的な性格を持つと同時に愛する者に対しては優しさを示す存在です。
アルジャーノン・ブラックウッド(Algernon Blackwood)のウエンディゴ(Wendigo)を元にオーガスト・ダーレス(August Derleth)が創造しブライアン・ラムレイ(Brian Lumley)に依って描写された存在です。
ダーレスがStrange Talesの1933年1月号に発表した「風に乗りて歩むもの」(The Thing That Walked on the Wind)で、夜に出現する風の神として登場します。赤く光る二つの眼を持つ巨大なヒューマノイドですが、想うにこの赤く光る二つの眼は、ブラックウッドのウェンディゴに関する描写から来ているのでしょう。ダーレスはブラックウッドのウェンディゴとの関連を盛んに匂わせ、他の作品でもウェンディゴをイタカの別名としたり、イタカの従兄弟と呼んだりしています。
この神はカナダのスティルウォーター村で昔から崇拝されており、何処からか飛来しては人々をさらって行きます。信者達はそのまま何処かへ運ばれて行きますが、そうでない者は地上へ落とされます。地上へ落とされると云っても、それで死ぬ様な落下ではなく、ただ、全身が冷え切っていて発見された時には息があっても低体温症で死んでしまいます。なお、イタカが飛来した翌朝には雪の上に巨大な足跡が残っています。わたしが子供の頃、空飛ぶ円盤や南極の一万メートルを超す山、ネス湖の怪物等の話と一緒に雪の上の謎の足跡の話も読んだ事があるので、ダーレスはその話もネタにしたものと想われます。そしてダーレスはStrange Talesの1941年2月号に発表した「イタカ」(Ithaqua)でもこの存在を扱っています。もっとも、「イタカ」は実際には「風に乗りて歩むもの」の原型にあたる作品で、「風に乗りて歩むもの」は「イタカ」のヴァージョン違いと云ったところです。その為、起きている現象は全く同じなのですが、元のヴァージョンである「イタカ」の特徴はハスター(Hastur)との関連が匂わせられているところです。イタカは人々を何処かへ連れ去って行きますが、「イタカ」を読むとハスターの所へ連れて行っているようにも受け取れます。そしてダーレスは、イタカを風の精たちの王ハスターの召使とも云っています。つまり、元々ダーレスはイタカをハスター絡みの存在と設定していたのです。ただ、作品としてはハスターが絡まない「風に乗りて歩むもの」の方がスッキリしていて、その分イタカの存在にインパクトがあり恐怖感も強いのですが・・・ちなみにラムレイはハスター絡みの部分は無視してしまっているようです。
ダーレスの作品では今一つ明確でなかったイタカを正面きって扱ったのはラムレイでした。The Magazine of Fantasy & Science Fictionの1975年12月号に発表され後に世界幻想文学大賞にノミネートもされた「Boen of the Winds」でラムレイは、エスキモーや黒人、白人等、人種を超えて構成され、ピラミッドを築いてイタカの降臨を待ち望むイタカ教徒達を描き、又、イタカとの間に息子のカービイ(Kirby)を産み、イタカの元に赴いたと想われる息子を探すブリッジマン(Bridgeman)夫人を登場させ、イタカが人間との間に子供をもうける神である事を示しています。イタカの子も、又、イタカ同様に風に乗り、風の精となります。そしてイタカとその子供達は世界各地で風の神や風の精の元になったとされています。この作品で惜しいのは、ラムレイがケツァールコアートルをマヤの風の神としてしまっている事です。ケツァールコアートル(Quetzalcoatl)はアステカに併合されたトルテカの神で、マヤではククルカン(Kukulkan)となり、そもそも風の神ではありません。しかもマヤにはハリケーン(Hurricane)の語源となった風の神フラカン(Huracan)が別に居るのです。「Boen of the Winds」は悲劇で終わっています。息子を追い求めるブリッジマン夫人は殺され、カービイは母の仇を討とうとしてイタカと高空で戦いますが、結果は見えています。そして主人公も、又、ダーレスが描いた多くのイタカの犠牲者達と同様の最期を迎えます。
ラムレイのイタカを巡る物語はタイタス・クロウ・サーガに属する長編「Spawn of the Winds」に発展していきます。「地を穿つ魔」でイタカに襲われて消息を絶ったウイルマース財団((Wilmarth Foundation)のテレパス、ハンク・シルバーヒュッテ(Hank Silberhutte)は実は仲間達と共にイタカが君臨する惑星ボレア(Borea)に運ばれていました。ここでラムレイは消えた人々の行き先が、イタカに依る殖民惑星であったとしているのです。ハンク達はここでイタカに叛旗を翻す抵抗勢力の一員となり、彼等の指導者でありイタカが人間の女性に産ませたアーマンドラ(Armandra)皇女と恋仲になります。そして続く「In the Moons of Borea」ではボレアに出現した探索者(The Seeker)アンリ・ローラント・ド・マリニー(Henri Laurent de Marigny)を主人公にボレアの二つの月に棲むイタカ信者達とその世界が描かれ、又、老境に差し掛かったアンリと、イタカが掌中の珠の如く慈しみ大切にしていた天真爛漫で快活な美少女モリーン(Moreen)との出会いが描かれています。そしてモリーンのエピソードからイタカに美しいものを愛する心と、愛する者に対する優しさがある事も判ります。
なお、リン・カーター(Lin Carter)はイタカをハスターの息子としています。
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