Detailed Explanation (may be) of Gods of CTHULHU MYTHOS
ジョイリーのジレル
1934年 登場作品:キャサリン・L・ムーア「暗黒神のくちづけ」
「暗黒神の幻影」
1935年 登場作品:キャサリン・L・ムーア「魔法の国」
1936年 登場作品:キャサリン・L・ムーア「暗黒の国」
1937年 登場作品:ヘンリー・カットナー/キャサリン・L・ムーア「スターストーンを求めて」
1939年 登場作品:キャサリン・L・ムーア「ヘルズガルド城」
1964年 関連作品:ラムジイ・キャンベル「暗黒星の陥穽」
キャサリン・L・ムーア(Catherine L Moore)に依る世界初の女性を主人公としたヒロイックファンタジー「ジョイリーのジレル」(Jirel of Joily)シリーズの主人公で、中世ヨーロッパのフランス語圏の架空の国ジョイリー(Joiry)の女領主にして女剣士です。男の中に居てもひけを取らない程の力と剣の腕を持ち、大柄で、赤い髪に野生の獅子を想わせる金色の瞳の持ち主と云う事ですから、如何にも攻撃的な美女なのでしょう。このシリーズは同じ作者の怪奇スペース・オペラ「ノースウェスト・スミス」(NorthWest on Earth)と双璧を成すシリーズで、いずれも主人公は暴れまわるのではなく、怪異に依って翻弄され肉体よりも精神的に被害を蒙る点が特徴で、怪奇な事象の前にひたすら「受け」に回り、それでも最後には勝利者となるかなり精神的にタフなキャラクターです。
本シリーズの特徴としては主人公が女性であるせいか、唇を奪われかけたり何者かに抱きしめられと云った、ノースウェストものには見られなかったタイプの性的な精神的被害も見られ、その屈辱が主人公の行動の動機となる話もあり、事件が単なる仕事の依頼から始まり表面的には何処かドライなノースウェストと異なり、気が強く事件がヒロインの個人的な動機に始まるジレルには何処か情念の様なものが見られます。ラストにおける逆転もノースウェストは誰かに助けられるか自らの生への執着心と云った原初的な部分に依っているのに対し、怒りや復讐心と云ったプライドに発する部分に依っています。キャラクターとして見た場合ノースウェストよりもジレルの方が複雑で生身の人間性を感じさせてくれるのは、矢張り作者が女性である為でしょうか。心理描写も細かいジレルの方が、作者が感情移入して描いている様に感じられます。又、ノースウェストものが全篇単調な展開なのに対し、ジレルものは後半、やや複雑な展開になって行きます。
初登場はWeird Talesの1934年10月号に発表された「暗黒神のくちづけ」(Black God's Kiss)で、敵国の大将ギョーム(Guillaume)に城を占拠された挙句に唇を奪われかけ、脱出せずに暗黒神(Black God)の領域へ降り復讐の為の力を手に入れようとします。その翌々月の同誌12月号に続編「暗黒神の幻影」(Black God's Shadow)が掲載されますが、その後は前作を受ける事なく独立した短編として続い行きます。又、後に結婚する事になる事になるムーアとヘンリー・カットナー(Henly Kuttner)との共作でWeird Talesの1937年12月号に発表された「スターストーンを求めて」(Quest of Starstone)では、ノースウェストと共演しています。
レギュラーとなる程のキャラクターは居ませんが、城の小礼拝堂にはジェルヴァス司教(Father Gervase)が居り、一作目と四作目に登場しています。部下や使用人で名前のあるキャラクターはゲスト的にすら登場していません。なお、ジェルヴァス司教のジレルへの呼びかけはMy Daughterで、キリスト教のFatherとして「我が子よ」と云った感じの親しみを込めた呼びかけなのでしょうが、日本語訳では「姫」とされています。
ジョイリーが今の何処にあったのかは判りませんが、クトゥルー神話世界のオカルティスト達の間ではある程度知られているらしく、ラムジイ・キャンベル(Ramsey Campbell)が18歳の時に出した処女短編集に収録されている「暗黒星の陥穽」(The Mine on Yuggoth)にはジョイリーの名前が出て来ます。
日本ではノースウェストものの作者のイメージが強いのですが、英語圏では世界初の女剣士ものであるジレルものの作者としてのイメージの方が強い様です。シリーズの作品数もジレルものの方が少なく纏め易かったせいか、20世紀中にも幾度か全話収録の単行本が出ていた様です。
関連項目
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