Detailed Explanation (may be) of Gods of CTHULHU MYTHOS
ノースウェスト・スミス
1933年 初登場作品:キャサリン・L・ムーア「シャンブロウ」
1934年 登場作品:キャサリン・L・ムーア「黒い渇き/黒い渇望」
「真紅の夢/緋色の夢」
「神々の塵/神々の遺灰」
1935年 登場作品:キャサリン・L・ムーア「ジュリ/異次元の女王」
「冷たい灰色の神」
登場作品:フォレスト・J・アッカーマン/キャサリン・L・ムーア「暗黒界の妖精」
1936年 登場作品:キャサリン・L・ムーア「イヴァラ/炎の美女」
「失われた楽園」
「生命の樹」
1937年 登場作品:ヘンリー・カットナー/キャサリン・L・ムーア「スターストーンを求めて/スターストーンの探索」
1938年 登場作品:キャサリン・L・ムーア「狼女/幻の狼女」
1940年 登場作品:キャサリン・L・ムーア「短調の歌」
通称
N・W
キャサリン・L・ムーア(Catherine L Moore)に依る怪奇スペース・オペラ「ノースウェスト・スミス・シリーズ」(NorthWest on Eerth)の主人公です。地球ではお尋ね者で、金星人のヤロール(Yarol)を相棒に、火星の宇宙港付近の酒場で胡散臭い依頼を引き受ける事を生業としています。
所有している宇宙船の名前はメイド(Maiden)で、酒は火星産セガーウイスキー(segir-whisky)をよく飲んでいます。性格は無口でハードボイルド、身を守る武器は光線銃です。イメージとしては典型的なスペースオペラのヒーローと云えるでしょう。もっとも、相手が普通の人間であった事が只の一度も無いので、スペオペ特有の颯爽とした撃ち合いシーンも当然の事ながらありません。ポイントは耽美小説にも通じる主人公やゲストヒロインへの「責め」です。第一作「シャンブロウ」(Shambleau)で快楽に喘ぐノースウェストの描写は、耽美小説の美青年達がもっと直接的な快楽に喘ぐ描写と、同質のものがあります。そしてノースウェスト自身、性的に強いのかどうかは判りませんが、性的快楽に対してはかなりの抵抗力があり、又、精神的にタフで、生への執着が強く、ラストではしばしば相棒のヤロールやゲストキャラクターに助けられる一方、自らの生への執着と強い生存本能に助けられてもいます。少年時代にトラブルから人を殺し出奔していた様です。流行歌としては既に古典となっている「地球の緑の丘」(The Green Hills of Earth)を好み、自ら口ずさむ事もあります。
このシリーズの宇宙観は、当時のスペース・オペラの典型でアンソニー・ギルモア(Anthony Gilmore)やエドモンド・ハミルトン(Edmond Hamilton)をはじめとした作家達の描く、西部開拓時代的な太陽系諸惑星の様相を、そのまま導入しています。本来はクトゥルー神話ものではないのですが、作中でしばしば唱えられる暗黒神ファロール(Pharol)が、後にムーアと結婚する事になるヘンリー・カットナー(Henry Kuttner)に依ってクトゥルー神話の神として取り込まれた事から、このシリーズもクトゥルー神話と関わりのあるものになって来ました。更に、本シリーズのうちの一つ「スターストーンを求めて」(Quest of Starstone)はムーアのもう一つのシリーズ主人公ジョイリーのジレル(Jirel of Joily)とのコラボになっていますが、ジョイリーの名はラムジイ・キャンベル(Ramsey Campbell)に依ってクトゥルー神話に取り込まれており、今日では両シリーズとも準クトゥルー神話的なものになってしまっています。なお、日本ではノースウェスト・スミス・シリーズがムーアの代表作の様な感じですが、英語圏ではムーアと云えばジレルの作者と云う認識の様です。只、流石に「シャンブロウ」も古典として名が残っていますが、かつてはシリーズ全体の作品数がややあるせいか、「シャンブロウ」や「黒い渇き」(Black Thirst)をはじめとした数作品を纏めたものしか出版されず、漸く全話収録の単行本が発行されたのは今世紀に入ってからで、1973年には三分冊とは云え全話単行本化(世界初だったらしい)されていた我が国と較べるとかなりの温度差があります。
第一作となる「シャンブロウ」は最初はWonder Storiesに投稿され、幻想味が強過ぎるとの理由でヒューゴー・ガーンズバック(Hugo Gemsback)に返却されたそうですが、ガーンズバックが目指していたものを考えると仕方無い事でしょう。次いでWeird Talesに送られてファーンズワース・ライト(Farnsworth Wright)に採用されたそうです。そしてシリーズものとしてWeird Talesに九作ほど書かれ、後、アンコール作としてヘンリー・カットナーとの合作でジレルものの第五作となる「スターストーンを求めて」(Quest of the Starstone)が書かれ、商業ベースで計10作が発表されました。一方、この間に、幼馴染のフォレスト・J・アッカーマン(Forrest J Ackerman)のアイデアを元にした「暗黒界の妖精」(Nymph of Darkness)が同人誌Fantasy Magazineの1935年4月号に発表されている他、ボツになっていた実質二作目の「狼女」(Werewoman)がロバート・H・バーロウの同人誌Leaves2号に掲載されてごく少数の読者に対して陽の目を見、又、ファンの求めに応じてシリーズのエピローグ的なごく短めの「短調の歌」(Song in a Minor Key)が同人誌Scienti-Snap1940年2月号に発表されました。
余談ですが、この時のハヤカワ文庫版のイラストで松本零士の絵を覚えたものでした。松本零士氏と云えば当時は「電光オズマ」や「潜水艦スーパー99」から「男おいどん」に画風が変化した漫画家くらいにしか想っていませんでしたが、このイラストで初めて氏の絵にエロティックな一面がある事を知ってファンになったものでした。実はその前にエロティックな「セクサロイド」と云うシリーズがあった事は知らず、丁度、ノースウェストものを読んだ後くらいに朝日ソノラマから四分冊で出版され、慌てて買ったもの覚えがあります。
なお、日本ではシリーズ名もノースウェスト・スミスとフルネームで呼ばれていますが、英語圏ではNorthWest on Earth(地球のノースウェスト)となっています。
関連項目
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